缶コーヒー








「どっちかってっと、俺は紅茶派だ」
 あれは高校3年のころだろうか、友人の家でコーヒーと紅茶のどちらが好きかを話していたときのことだ。
「更に言うとミルクティーよりもレモンティーの方が好きなんだが」
 手渡された缶コーヒーを勢い良く振りながらはっきりと付け加えた。
「諦めろ、今ウチにはコレしかない」
「断る」
「断るな。ていうか何で振ってんだよ?」
「泡立たないかな、と。こうコーラみたいに」
「んなわけあるか」
 訳の分からんことをするなといつのも様に呆れた顔で言う。
 泡立っても面白いと思うんだが……
「ところでこの蓋ってなんていうんだっけ?」
「プルタブのことか?」
 既に開けて飲み始めていた友人は一端口を離してから答えた。見た感じ既に半分は飲んでそうだ。
 俺は……まだ開けてない。
「そうプルタブだ。コレってさ、昔引っ張って開けるのあったよな?」
「ああ、あったな」
「あれってどこいったんだ?」
 物心ついた頃に数回した見たことがなかったが、はっきりと覚えている。
 なんたってアレで指切った男だからな、俺は!
「さあ?」
「むぅ……気になる」
「そんなどうでもいいこと気にしなくてもいいだろう」
「それはそうだけど……」
 正直『あの人は今!?』とかいう企画よりも気になる。やってくんねーかなー『あのプルタブは今!?』とか。
「……あの人は今!?とかいう番組がたまにあるよな?」
「あるな」
 やれやれ、といった顔を見る限り既に何を言うか予想できているのだろう。
 だがその程度で俺は怯みはしない。
「あのプルタブは今!?とかいう企画立ててくんねーかな?視聴率稼げると思うぞ」
「いや、廃止されましたとかいって5分ぐらいで終わるだろう」
「……やっぱり?」
 分かっていてもまともに返してくれる辺りは流石だ。何て言うか流石相棒。
「それより飲まないのか?」
「ん?いや飲むぞ」
 缶コーヒーと一緒に持ってきたクッキーを適当に漁りながら本を読む。
 二人一緒にいるのに本を読むのはどうかと思うが、そこは無視してプルタブを引いて押して開ける。
 メーカーは同じようだが、ラベルを見る限り種類の違うコーヒーのようだ。
 そんなことを頭の片隅で考えながらクッキーを一枚丸ごと頬張ると、コーヒーを流し込む――
「て、ブラックかよ!?」
 強烈な辛味に舌が弾ける。
「ん、今頃気付いたのか」
「何かラベルが違うと思ったら……」
 野郎、まさか仕掛けてやがったとは。
「胃に悪いだろーが」
「大丈夫気にするな。君の胃なら王水だって消化できる」
「どんな胃だよ、それ」
 王水って何でも溶かす溶液じゃねーか、んなもん消化できるか。
「むしろ俺が消化されるわ」
「大丈夫、君ならいける」
 その根拠は一体ナンデスカ?
「とにかくコレは駄目だ。胃に悪いし舌が痺れる」
「何だ、意外とまともな神経が通ってたんだな」
「…………」
 一体コイツは俺をなんだと思ってるんだ?
 確かに飲めないことはないが、好みではない。ていうかぶっちゃけ嫌いだ。
「……仕方ないな。砂糖はないがホワイトでもないよりはマシだろう」
 そういって何かを投げてくる。
 何だよミルクがあるのかよ。
 だったらさっさと出せって――
「ホントに修正液ホワイトかよ!?」
投げ渡された修正機を投げ返す。
「色的にはちょうどいいだろ?」
「色だけじゃねぇか!」
 味は無視かよ。
「いや〜でも実際金のない漫画家はやるらしいぞ?」
「いや、やらないから」
 やるわけねぇ。
「生で一度見てみたかったんだが」
「なら自分でやれ」
 残念ながら、俺はコイツのモルモットになる気はない。
 残念でもないか。
「ところで全然関係ないんだが」
「あん?」
「俺は微糖の微が好きなんだ」
「……漢字フェチか?」
 かなりマニアックな奴だな。
「ネコミミが好きなのに加えて漢字フェチか……救いようがないな」
「いやそうじゃなくて、あのふわっと広がる程よい甘さが素敵じゃないか」
「そうか?」
 微糖の話をするところ、奴が飲んでいるのは微糖なのだろう。
 俺のはブラックだから程よい甘さもふわっとも感じられない。
「ブラックの辛酸具合なら筆舌に尽くし難いほどよく分かるがな」
 ついでにホワイトの精神的ショックも。
「あの甘すぎず、かと言って甘さを感じないこともない微糖の素晴らしさが分からないのか?」
「全然分からん」
 正直微糖って味しねぇし。
「全く君って奴は……」
「何だよ」
 大振りに演技して見せるあたり何とも言えないが、まぁいつものことだ。
「別に微糖が理解できないぐらいで人生変わりはせん」
 適当にクッキーを頬張るとやはりコーヒーで流し込む。
 俺がモノを食べるときの癖だ。
 クッキーの甘さを遙かに上回る苦味が濁流なって押し寄せる。
 うわぁ、苦い。
「あーでも、俺はロイヤルミルクティーが一番好きかも」
「違いすぎだろ!ていうか甘甘じゃねぇか!」
 唐突に話を変えるのは変える側としても変えられる側としても慣れているのでこの程度なら特に問題なく反応できる。
「全然程よくないだろソレは」
「あの後味のまろやかさがいいんじゃないか」
「甘さについての言及は無視かよ」
「いや、あれはあの甘さがあってこそだ」
 程よい甘さやふわっと感は割りとどうでもいいらしい。
「それにレモンティーは後味の渋みが駄目だ」
「それはレモンティー派の俺への挑戦状か?」
「レモンティーなんて渋いじゃないか」
「ミルクティーは後で喉に残るような感覚が駄目だ」
 お互い全く譲る気がないのは見れば分かる。
「これは個人レベルの好みの問題だな」
「当然だろ。だがミルクティーは少数派だな」
「レモンティーなんて失敗作なんだよ」
「…………」
「…………」
「……これ以上議論の余地はないな」
「そうだな」
 その後はいつもどおりどうでもいい会話だ。
 特に記憶にも留めていない。


 結局微糖が好きとかぬかしておきながら紅茶派だったアイツは今頃何をしているだろうか?
 たまたま目に入った自販機で思い出したように買ったブラックの辛味を噛み締めながら思う。
 日も落ちているし部屋に戻って絵でも描いているのだろうか。
 吐き出した息が白く曇る季節、だけれども1年程度しか経っていない記憶は割かし鮮明に思い出すことができた。
 思い出して暖かいということもないし、特に耽る感慨があるわけでもない。
 ほんの少し口に含んだだけで舌とは言わず全身が痺れる気がした。
 別に格好をつけているわけではないが、寒空の下でブラックの缶コーヒーを飲む姿は少しだけ様になっている気がした。
 曇りでもないのに星の見えない夜空を歩きながらちびちびとコーヒーを啜る。
 まぁ何にせよ、やっぱり俺は紅茶派だな。
 ついでに言うとレモンティーの方が好きだ。
 まだたっぷりと残っているコーヒー。ソレを音が立つように振る。
 まるで波のような音が少しだけ心地よい。
 しかしまぁ、
「何だって俺は冷たいのコールド買ってんだか……」
 このクソ寒いのに。









というわけで(?)頑張って書いたお題を決めて短い文章を書くシリーズ(何)第二段「缶コーヒー」でした。
前回の「タバコ」に比べると失敗してる感が物凄くします。
なんていうか文章の流れが悪いというか・・・
まぁもともとは何も考えていないネコミミとの地の会話なので、無理やり思うところを入れるとこんなもんなんでしょう。
やっぱり今回も一部ノンフィクションで主に振るところとホワイトです。
あーあと微糖もそうですね。
実際自分としては紅茶派ですから、コーヒーは・・・といったところがあります。
大体今回のは2500文字ぐらいなので、やっぱりタバコよりは長いですね。
気分と課題次第ではこのシリーズは続くことになりますが、まぁ読んでくれた人は感想とか(読んだとかだけでも)くれると嬉しいです。



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