君がいる理由、僕が望んだこと








「え〜康之君いじめられてたんだ?」
 リリィは意外そうに言った。
「まぁね。自慢にはならないけど昔からずっと」
 少しだけ遠い目をして康之は言う。
「昨日の様子を見る限りじゃそんな風には見えなかったけど」
「あれはたまたまだよ」
 歩きながら、転がっていた石を蹴る。
「いつもならただやられるだけで終りだったさ」
「じゃあ何で逆らったの?」
 顔を覗き込むようにしてリリィが訊いてくる。
「う〜ん。今までもそういう気持ちはあったんだろうけど……たまたまかな?」
 あえて本当のことを言わないように覆い隠す。
「ふ〜ん。じゃそういうことにしておくよ」
 リリィは何か見透かしたような笑顔を向ける。
「何だよ?」
「何でも。それよりさA今日はどこ行くの?」
 少しだけ小走りノ前に進み、振り返ってから言う。
「特に決めてないけどな」
 言ってから康之は行き場所を考え始める。
 朝一緒に来るときにリリィと約束したのだ。今日も街の案内をすると。
 本当ならば課外を受けている間に考えたかったが、なかなか思うようにいかず、結局まだ決まっていなかった。
「とりあえず何か食べようよ」
 リリィが横に来て言った。
「……そうだな」
 康之は首を縦に振った。
「どこかおいしい店知らない?」
「あんまり知らないな」
「む〜」
 頬を風船のように膨らませて抗議してくる。
「……そんな顔したって知らないもんは知らないって」
「ぶ〜こういうのはムードてのが大切なのよ?」
 康之の鼻の頭に人差し指を突き立てて言う。
「……ムードって十年早い」
 一瞬目を泳がせてからリリィの頭に軽くチョップを入れる。
「それにムードは味じゃないだろ」
「む〜何よ〜」
 不貞腐れたように不平を言うリリィ。
「それにムード云々は恋人達の気にすることだ」
 言っていて、自分が悲しくなってくる。
 思わず、ため息をついてしまいそうになるぐらい。
「だったらさ、恋人に……なる?」
「え?」
 リリィの言葉に一瞬、とは言わずに心臓が跳ね上がる。
 心臓が波打つ音だけが木霊して、他の一切が聞こえなくなる。
 頭に血が上って、全身が熱くなる。
 まともに思考が回らなくなる。
 それなのに、どこか醒めている感覚。
「あれ?えと……」
 考えなくても答えは決まっているはずだった。
 なのに、言葉が出てこない。
「…………」
 リリィは康之の言葉を待つように何も言わずただ、見つめている。
「その、えっと……」
 わかっている。自分の答えがなんなのか。
 なのに、出てこない。
「……冗談だよ」
 一向に答えることの出来ない康之に痺れを切らしたのか、リリィが口を開く。
「それとも、真剣に考えちゃった?」
 そう言って、笑う。
 恐らく誰もが本当に冗談だったのだと、思ってしまうような笑顔。
そもそも昨日初めて会ったのだ、そんなことを言うには早すぎる。
 だけど、康之にはその笑顔が冗談ではないと言っているような気がした。
 根拠は、ない。
 ただ、なんとなくだ。
 でも、それで十分だった。
根拠がないことなんていくらでもある。だったら今は自分の気持ちを伝えるだけでいいはずだ。
「リリィ、ゴメン。すぐに答えられなくて」
「何言ってんの?冗談だって言ってるでしょ?」
 そう言ってもう一度笑う。
 それが、悲しい笑顔。
「俺には冗談に思えなかった。だから……」
 言葉を切って、深呼吸をする。
「その、俺はリリィのこと、嫌いじゃないし。えっと、それで……」
 自分には絶対に言うことが出来ないと思っていた言葉。
 同時にそれは、言ってはいけないと思っていた言葉。
 その言葉を今、言おうとして覚悟を決める。
「そっか、じゃあ」
 だが、それを遮るようにリリィが口を開いた。
「今から、彼氏」
 康之を指差して。
「彼女」
 今度は同じように自分を指差して言う。
「二人合わせて恋人だね」
「ええと、リリィ?」
「そっかーよかったよかった。悩んでたからもしかしたら振られるかもしれないと思ったけど、これにて一件落着!」
 親指を立てて、満面の笑顔で言ったリリィに、康之はそれ以上何も言うことは出来なかった。

 それからというもの、康之にとっての毎日が大きく変化していった。
 暗い部屋の中で、一人悲しみにくれることもなくなった。
 自虐的になって、カッターの刃を押し付けることもなくなった。
 毎朝待ち合わせをするようになってから、何もかもが上手くいくようになっていた。
 もしかすると、今まで消極的になりすぎていただけなのかも知れないと思うほどに。
 慌てた様子で靴を履きながら、玄関のドアを勢いよく開ける。
「やべ、ちょっと寝過ごしたか?」
 康之は食パンを銜えたまま朝日の降り注ぐ道を走り始める。
 約束の時間までもうちょっとしかない。
「畜生、こんなときに限って母さんがいないんだから……」
 角を右に曲がる。
 以前は全く通ってなかったが、今ではすっかり馴染みとなった道。
 あの日から毎日通っている道。
 最後の角が見えてくる。ここを曲がればいつもの場所に着く。
「遅いぞ〜」
 全力で走って来て、肩で息をしている康之に向かってリリィはそう言った。
「ゴメン。ちょっと、寝過ごしちゃって……」
 ぜえぜえと呼吸を整えていく。
「でも大変だね。お母さん達いなくて」
「全くだよ、夫婦で旅行に行くのは勝手だけどさ……」
 上体を起こして最後に深呼吸をする。
「でも体力ついたよね」
 二人は並んで歩き始める。
「まあね。ちょっと前とは比べモンになんないよ」
 いつものように他愛もない会話をしながら学校へと行く。
 そして学校が終われば同じように話をしながら帰る。
 それが、最近にできた新しい日課。
 いつまでも続いて欲しいと願う瞬間。
 いつまでも続いていくと思う瞬間。
 その瞬間の連続が時間を作っている。
「ねえ康之君」
「なんだ?」
「楽しい?」
「いきなり何言ってんだよ?」
「私といて楽しい?」
「何訊いてんだよ。楽しいに決まってるだろ?」
「どうして?」
「どうしてって言われてもな。……楽しいもんは楽しいんだよ。それに最近何やっても上手くいくしな」
 急にリリィが足を止める。
「どした?」
 康之も足をつめ、尋ねる。
「何やっても、上手くいくんだ」
「まあな。今だったら何でもできそうな気がするんだ」
「そうだね。きっと思い通りに世界が動かせるんだよ。自分の世界が」
 リリィは空を見上げる。
「……そうだな。そんな感じかな?」
 康之も空を見上げ、暫くしてから歩き出す。
「ほら、さっさと行くぞ」
「うん。待って」
 リリィが小走りで追いついてくる。
 いつもの笑顔で。
 そして、他愛もない会話。
「それでさ……ん?」
 随分と歩いてから、突然康之が立ち止まる。
「どうしたの?」
「いや、あれ」
 そう言った康之の指差した先にあるもの。
 それはいつか二人で買ったときに連続で当たりの出た自動販売機。
 そして、五十嵐。
「あいつ、何してんだ?」
 遠目からでは何をしているかはわからないが、荒れていることだけはわかった。
「自動販売機蹴ってるね」
「全く、アイツは……」
 嘆息交じりに言い放つと康之は歩き始める。
「いいの?放っておいて」
「別にいいさ」
 リリィもまた康之に追いついてくる。
 完全に自動販売機と五十嵐の姿が視界から消える。
 ほんと、ああいうのは一回車にでもはねられて……
 そう、康之が思った瞬間と、急激なブレーキ音、そして何かが潰れる音がしたのはほとんど同時だった。

 そこは薄暗い空間だった。
 かつての自分の部屋がそうであったのと同じように、重たい空気と冷たい闇に支配された静寂の空間。
 ベッドに倒れこんで天井を見上げたまま何も考えないようにと、目を閉じる。
 へしゃげた鉄の塊とあたりに散らばった無数の缶やペットボトル。
 地面を染めていた、飲料水ではない赤黒い色をした液体。
 そして、その赤黒い軌跡を残した血肉の塊。
 何度振り払おうとしても、鮮明に甦ってくる。
 焼き切れたゴムの臭いと、いつまでも消えてなくならない血の匂い。
 ゆっくりと、目を開く。
 偶然、そう言いきることができるのか。
 あの時、あの瞬間。
 自分は一体何を考えていたのか。
 暗い部屋の中で、灯も点けずにただ思考を巡らせていく。
 それでも、偶然と言うことしかできない。
 誰も、康之を責めることなど、できはしない。
「畜生……」
 呟き、祈りをするかのように、指を絡める。
 確かに五十嵐のことは好きではなかった。
 正直、嫌いと言った方が正確だっただろう。
 何度も、死んで欲しいと、殺したいと思ったこともある。
 それでも、本当に死んで欲しかったわけではない。
 ただ、一時の感情でそう表現しただけだった。
 それなのに……
「死ぬなよ……」
 誰もいない部屋の中で、口に出して言う。
 その声は重く響き、何度も頭の中を木霊した。
 いっそのこと、責められた方が楽なのかも知れない。
 目を閉じる。
 これが夢だったら、どれほど気が楽だろうか。
 全てを忘れて眠ることができたなら、どれほど幸せだろうか。
 だけれど、それは許されない。
 消してしまうことも、忘れてしまうことも。
 できるはずがなかったから。
 瞼の奥に、脳裡に焼きついて離れない赤を見たくはなかった。
 赤という色を、忘れることができるなら。
 ピリリ ピリリ
 鮮やかな光を放ちながら携帯が鳴った。
 康之は立ち上がり、携帯を手に取る。
 初めて、泣いていることに気づいた。
「メールか……」
 袖で、涙を拭いながら呟く。
 だとしたら送り主はリリィしかいない。
 康之は微かな希望を抱いて、ボタンを押していく。
 あの時、リリィもその場にいた。
 流石にその時は元気があった、とは言えない状態だったが、それでも康之よりは幾らかマシだった。
 康之がその時求めていたのは、救いの言葉だった。確かな救いの言葉。
『何を、考えましたか?』
 表示された文字の羅列を目にした瞬間に言葉を失う。
 送信者の欄には、何も書かれていない。
 もう一度、確かめるように本文を読む。
『何を、考えましたか?』
 いつもと変わらないはずの記号が、広く冷たく感じられる。
 ピリリ ピリリ
 握り締めていた携帯がもう一度鳴る。
 恐る恐る、届いたメールを開く。
『あの時、貴方は何を、考えましたか?』
 送信者は同じようにいない。
 冷たいメール。
「何だよ……あの時って?」
 足が、体が動こうとしなかった。
 あの時。
 いつのことかはわかっていた。
 それでも、認めたくなかった。
 あの時思ったこと、一番忘れてしまいたかったこと。
「俺は……アイツを……」
 頭で、心で否定する。
 なのに、口がその言葉を紡ぎだす。
「ほんと……ああいうのは一回……車にでもはねられて……」
 まるで、何かに操られているかのように。
「車にでも……はねられて……!」
 言ってはいけない。
 言えば全てが終わってしまう。
 そんな気がして、もう何を言おうとしているのか理解していても、必死に抗おうとする。
「はねられて……」
 ピリリ ピリリ
 三度、携帯が鳴る。
 だが、今度はメールを読もうとはしない。
 読もうとはしていなかったのに、
『死んでしまったほうがいい』
 画面には既に本文が表示されていた。
 まるで、康之が何を考えているか、知っているかのような内容。
「違う……おれは」
『だから死ぬ。絶対に助からない』
 音もなく、いつの間にか内容が変わっている。
 目の前にいる相手と会話をしているかのように。
「そんなこと……」
 知りたくない。理解したくない。認めたくない。
『貴方が、そう望んだから』
 携帯の画面に、パソコンのディスプレイに、壁に、窓ガラスに、赤く浮かび上がる。
「あ、ああ……」
 力なく手からすべり落ちた携帯が、床に叩きつけられて音を立てる。
 その音と同時に、携帯が、電話が、目覚し時計が、パソコンが、テレビが、ありとあらゆるものが鳴り始める。
「な、なんなんだよ……」
 鳴り響くけたたましい騒音に声がかき消される。
 鋭く、冷徹な金属の音が焦燥をかきたてる。
 どんどんと追い詰められていく心に連ねるかのように、音は大きくなり、康之の鼓膜を揺さぶる。
あるはずがない。コレは夢だ。部屋がこんなに騒がしいのも、真っ赤な文字で綴られるのも、五十嵐が事故にあったのだって――
『貴方が、そう望んだから』
 一つ、また一つと同じ言葉が現れる。
「知らない……俺は何も知らない!」
 ドアを蹴破るように開き、階段を転がり落ちるようにして外へと駆け出していく。
 鳴り響く非難の声が遠く、小さくなり、そしてまたすぐ後ろから聞こえてくる。
 決して後ろは振り向かずに、振り向くことができずに、康之は夜の道を走る。
 何も履いていない足の裏に、痛みが走るが、気にしている暇はない。
 ただ、走ることで、逃げ出すことで自分を保とうとすることしか、康之にはできなかった。

 どのように、どのくらい走ったのかはわからなかった。
 ただ、気がつけばいつか課外をサボったときにいた橋の影で自分を抱き抱えるようにして震えていた。
 追ってきていたあの音もいつしか聞こえなくなり、静かな場所だった。
 夜のせいなのか、蝉の鳴き声も、何も聞こえないくらい場所。
 橋の足に書かれた『The world becomes as you hope.』の文字。
 それが何処まで行っても何も変わっていないことを示していた。
 何で……こんな……
 康之は小さく縮こまったまま、震えながら、自分に問い掛ける。
 そうすることで、もう一度先程のようなことが起こるということは理解していたが、そうせずにはいられなかった。
 何で……
 何が起こったのか、知りたかった。
 理由が知りたかった。
 何故、起こったのか。
 何故、全てが知られていたのか。
 寒さに震え、恐怖に戦く。
 そして、何も知りたくはなかった。
 突きつけられた静寂が崩れることを懇願しつつも、このまま何も起こらないことを切望する。
 静寂を打ち破るだけの力はなく、望んでもいなかった。
 それでも、恐れていた。
 ピリリ ピリリ
 乾いた音が響く。
 目をやったそこにあったのは、携帯電話。
 康之のものだ。
 恐る恐るてを伸ばし、掴む。
「何で、こんなところに……」
 ピリリ ピリリ
 メールではなく、電話。
 握った電話に出るのではなく、ただ眺める。
 ピリリ ピリリ
 いつまでも止まず、鳴り続ける電話。
 ゆっくりと、その電話を耳にあて、通話ボタンを押す。
『康之君!?』
 受話器の向こうから聞こえてくる聞いたことのある声。
 その声に、康之は安堵の息を漏らす。
『康之君?康之君だよね?』
「ああ、そうだよ。リリィ」
 できるだけ平穏を装って答える。
『よかった、全然出てくれないから』
「ごめん」
『ううん?いいよ。それでさ、康之君に訊きたいことがあるんだけどいいかな?』
「……何?」
『えっとさ、康之君はまだ、康之君だよね?』
「え?」
 リリィの思ってもない問いに康之は驚き、その言葉を繰り返す。
 康之君はまだ、康之君だよね?
「リリィ……それどういう」
『よかった、じゃあさ、もう一つ訊いてもいいかな?』
 康之の言葉を待たずにリリィが言った。
 そして、康之はまるで錆びた機械のように遅とした動作で携帯を下げ、
 目の前に立っている人物へと目を向ける。

「貴方の望んだことは、かなった?」

 受話器と、目の前に佇むリリィの口から、同じ言葉が、同時に、聞こえてきた。
 腕から、携帯が滑り落ちる。
「なん……で?」
 恐怖だったのか、驚きだったのか、言葉が出なかった。
「貴方が、望んだから」
 リリィは冷たい声色で言う。
「貴方がこうなることを望んだからこうなったの」
 生気を感じさせないのではなく、実態が感じられない、まるで存在しないかのような声。
 背筋が、凍る。
「貴方が私に会いたいって思ったから私はここにいる」
 リリィは笑う。
 とても、残酷な笑みで。
「貴方が望んだから、世界は変わった。理由は知らない。だって貴方が知らないから」
 悲しい瞳と、冷たい笑顔で。
「貴方が知らないことは、私は知らない。私は貴方が望んでいたものそのものだから。望んでいるものそのものだから」
 一歩、前に出る。
「だから私という存在はどこにもない。望んでいる貴方が見ている夢。幻。希望。欲望。ありもしないもの」
 また、一歩。
「貴方が望んでいることを私は全て知っている。それが私だから。貴方が知りたかったことは全部同じこと。それは、貴方が望んだこと」
 ほんの、目と鼻の先にリリィが顔を近づける。
「何で、自分が?……それはわからない。だって知らないから。私は貴方が望んだものでしかない。それ以上でも、それ以下でも」
 康之の意図を読み取って、言葉にする前に答えを返してくる。
「そして……」
 ゆっくりと、優しく、口付ける。
「これがその答え」
 敵意と、慈愛に満ちた眼差し。
 全てを奪うように、もう一度口付ける。
 何もできずに、ただ、その感触だけが伝わる。
「苦しいんでしょ?辛いんでしょ?」
 唐突に康之の頭をその胸に抱く。
「ここから逃げ出したい。全てを忘れたい。そう願ったんだよね?それができるなら」
 冷たく、暖かい感触があった。
 それが、悲しかった。
 だけれども、何もできなくて、何も言えなかった。
「止めることもできないし、そんなことは考えてない。考えてないけど、わからないの」
 腕に、力が込められる。
「どうしたいかが、わからないの。わかっているはずなのに」
 少しだけ、動けるようになった。
 動けなくなっていたのに。
 自分がどうしたらいいのか、初めてわかったような気がした
「貴方は、何を望んでいるの?どうして、消えようとするの?」
 もう、何がどうなっているのかは分からない。
 わかっていたのは、リリィが泣いていることと、自分が消えていくこと。
 それはきっと、そう望んだから。
「リリィ……」
 きっと責めていたのも、泣いているのも、そうあるべきだと望まれたから。
 それでもよかった。
 ただ、目の前にいてくれることが、暖かかった。
「ごめん」
 少しだけ動くようになった腕で、抱きしめようとする。
 消えてしまう前に、忘れてしまう前に、例えどんな形でも、気持ちだけは嘘じゃなかったから。
「謝らないでよ」
 そう言ったくれたリリィの声が嬉しくて、悲しくて。
 抱きしめようとしていた腕は、消えていた。

 ジリリリリリリリリ
 いつもの時間を知らせる、聞きなれたベルが耳元で鳴り響いた。
「うるせぇ!」
 叫びと共に蒲団の中から愛用してきた目覚し時計に向かって必殺チョップを繰り出す。
 鈍い音と共に、目覚ましの音が止まる。
「ったく、なんで学校ってのはこんなに早くからあるのかね」
 愚痴りながら布団から這い出て、一回へと下りていく。
 階段の途中で欠伸をかみ殺した。
「おはようさん」
 ダイニングの入り口にかけてある玉暖簾をくぐりながら朝の挨拶をする。
「おう、おはよう」
「あら、今日は早いわね」
 食卓では既に両親が食事を始めている。
「ま、新学期の初めぐらい早く起きるさ」
 席に着きながら。
「いつもそうだと助かるんだけどね」
「それは無理」
 牛乳を飲みながら答える。
 パンはまだ焼かれていなかった。
「あ、今日はいいよ」
 急いでパンを焼こうとしていた母親を制して二回へと戻る。
 着ていたパジャマを脱ぎ、制服に着替える。
 今日はいつもより早く起きたから余裕がある。
 服装を整えてから、深呼吸をする。
「よしっ」
 気合を入れてから部屋を出て、玄関で靴を履く。
「んじゃ、いってきま〜す」
 そう言うと返事も待たずに家を飛び出す。
 一学期の間、憂鬱な気分で歩いていた道を、駆け抜け、いつもの角を右に曲がる。
 結局何がどうなったかはよく覚えていなかったし、よくわからない。
だけど、確かなことがあった。
 それは、自分はここにいたかったということ。
 そして、
 最後の角を曲がる。
 そして見えてくるいつも、自分を待ってくれている人の姿。
 消えていくことを望んだ自分を最後には呼び止めてくれたあの人の姿。
 そして、彼女は今ここにいるということ。
 だから、今日こそ言わなければならない。
 あの時に、言えなかったことを。

 彼女がいる理由。
 それは俺が、望んだこと。
 二人で一緒に……






ここから先は反転でArc_gのぶっちゃけ話とかになります。興味のあるかた以外は控えた方がいいかも?

というわけで『君がいる理由、僕が望むこと』でしたが、最後の文では「俺」になってます。なんでかって?そりゃだってタイトルに「俺」なんて字が入ってるとムカつくからですwいやそんだけなんですけど・・・ここの文章はもう適当で読みにくいけどその辺は我慢してください。
とりあえず言っておくと、眠かったし受験生だったので時間もなく後半はひたすらハイペースです。
なんでそこで告白やねん!と思った方、我慢してください。結論から言うと多分(当時のArc_g内では)伏線だったんでしょう。展開とテンポが早いのだけがこの作品の伏線です(ェ
結局なんだったのか・・・というと謎です。Arc_gとしてはかなり珍しいんですけどね、最後まで謎って。
『The world becomes as you hope.』は元々『The world becomes as you think.』だったのですが、時間が経ってから変えました。考えてみるとthinkの方がいいんですよね・・・
それはそうと五十嵐とかどうなったのか・・・?田部ちゃんは?
この辺また今度暇があったら番外とか書いてみたかったり実はしてます。
なにしろ急に作ったからサブキャラに活躍の場がなくて・・・w


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