タバコ








「あれ?お前タバコ吸うの?」
 大学に入って初めての夏休み、実家に帰ってきて3日目、久々に会った友人は再会の挨拶もなしに言った。
「ん、まあ、何ていうか」
 歯切れの悪い言葉を並べながら、ポケットから取り出したばかりのタバコを弄ぶ。
 種類なんて気にしていない俺にはどこの製品かなんて関係ない。
実際このタバコも自販機に金を入れてから適当に買ったものだ。
「別に吸うわけじゃないんだけど」
「ならなんで買ったんだよ」
 自分でもそう思う。
 吸いたい、と思ったわけでもないのになぜか買った。
 当然タバコに吸う以外の目的なんてないから、吸うことには吸ってみたのだが、
「試したらやっぱりダメだった」
 吸い方も分からないまま口につけて、噎せたときのこと思い出しながら肩をすくめる。
 友人はやれやれと言わんばかりの呆れ顔を作ってみせる。
「やれやれ、て顔だな」
「やれやれ、て顔だ」
 今度はコイツが肩をすくめながら、苦笑交じりに言った。
「まったく、タバコは吸わないんじゃなかったのかよ?」
「いや、そのつもりだったんだが……」
 ホント、なんで買ったんだか。
 タバコは健康を害する。吸っていいことなんて何もない。
 だから俺は一生タバコは吸わないようにしようと思っていた。
 でも、どうしてか大学から帰る途中で目に付いた自販機、そこで売られていたタバコを買った。
「なんとなく、なんとなくだけど吸ってみたかったのかもしれない」
「俺はそうは思わんぞ?」
「ま、そうだろうな。でもさ、知りもしないものを否定するってのもね」
 どうも後付けくさい理由だ。
「お前にそんな殊勝な心掛けがあるとは思えんが」
 ま、実際後付けだし。
「馬鹿にするなよ?俺は理系なんだぜ?」
「いや、全然関係ない」
「知ってる。言っただけ」
 持っていたタバコを上下に振る。上手く、こう、一本だけ出てこないもんかな。
「……ダメだったんじゃないのか?」
「ん〜?いや、こう一本だけ上手く取り出せたら格好よくないか?」
「否定はせんが……」
 半眼で、やっぱり呆れ顔を作ってみせる。
「あんまり眉間にシワ寄せてると戻らなくなるぞ?」
「そう簡単になるか」
 むぅ、上手くいかないもんだな。
 何度やっても全く出てこないか、何本も出てきやがる。
「それでソレはいつ買ったんだ?」
「あん?……一ヶ月ぐらい前かな」
「……湿気ってんじゃないかそれ?」
「……タバコって湿気るのか?」
「いや、知らん。想像で言っただけだ」
「むぅ」
 なんだかな。
 まぁ、嘘でもホントでも、どうせ吸うこと自体ほとんどないのだから関係ない。
「ところでさ」
「何だ?」
「タバコの火を送り火にしたり、煙を線香の代わりにしたら格好いいよな?」
 あ、また呆れ顔になった。
「……ダメか?」
 奴は表情を変えずに、はぁ、と一度大きくため息をついてから、
「否定も肯定もしないが、別にそれは狙ってやるもんじゃないだろ」
 メンドクサイとでも言いかねない口調で言った。
「むぅ。でも、そこをあえてそうするからだな」
「はいはい」
 ……ムカつく。
「お前が死んだら骨を拾う代わりにそうしてやるよ」
「骨は拾わねぇのかよ」
「好きな方を選べ」
 二者択一かい。
「三番、お前を先に屠っておく……て、なに妙に納得してんだよ?」
「どうせそう来るだろうと思ってたさ」
 ふふん、と鼻で笑う。
「……前言撤回」
「あん?」
「四番、やっぱ今死なす」
「やれるものならやってみろ」
 軽く笑みを浮かべながら、余裕の表情。
 まぁ、普通はどう言われたって、実際にする奴はいない。が、生憎俺は普通じゃない。
「てい」
 組んでいる腕を避けるようにして、鳩尾に一発。型も何もない適当な突きだ。
「いだっ」
 思いのほかキレイに入って、ちょっとだけホントに痛そうな顔になる。
「何すんだ」
 それなりに鳩尾を押さえているが、まぁ大丈夫だろう。
「気にするな。死ぬこたぁない」
 ドンマイ、と適当なことを言ってから、タバコをくしゃくしゃにして、ポケットにしまった。
「なんだ、もう練習しないのか?」
 別に怒っている風もなく、いつも通りに。
「できたって意味ねぇもん」
 どうせ、タバコを吸わないのだから。
「そうか」
「ま、ね」
 お互い適当な言葉を交わす。
 会話をしても、その内容はいちち覚えようとはしない。どうでもいいようなことばかりだ。
 タバコのことを含めて。
「あっと、ちょっとトイレ」
 結構話してから、そう言ってアイツはトイレに行った。
「あいよ」
 特にすることもなくなってボーっと。
 あ、そうだ。
 暇つぶしに、ポケットに放り込んだタバコを取り出す。
 予想以上に潰れてる。これじゃ一本だけ出すなど夢のまた夢だ。
「ま、いいや」
 どうせ火を付けるだけだ。
 くわえてから、ライターを探す。
「……あ」
 そこで気が付いた。
 なるほど、慣れないことはするもんじゃない。
 タバコだけあったってしょうがないというのに。
「何やってんだかね……」
 まったく、馬鹿だな俺。
 ため息をつきながら、タバコをくわえなおす。
 馬鹿にされるだろうけど、一応話の種だ。
 やっぱり、タバコは吸うべきではない、と。








というわけでお送りしたのは「タバコ」です。
気の利いたタイトルなんてものはありません。
多分自分に課した課題かなんかで短い文章を書けってものだったんでしょうが、覚えてません。
ていうか既に書いてから(このあとがきを書くまでに)4ヶ月経ってるし。
存在すら忘れてましたよ。完全に。
まぁ、何はともかくあとがきでもしようかと・・・
この「タバコ」ですが、半分以上は実話、ノンフィクションです。
主に大学に入って何となくタバコ買ったところと、それを実家に帰ってきたときに友人と話したこと、あとは一本だけ出す練習をしてみたところとかがそれに当たります。
キャラクターについてはいわずもがな。
タバコを持ってる方がArc_g、もう一方がイメージ的にはネコミミです。
ただここでイメージ、と言っているのは「タバコを吸う」ということを指摘した友人とネコミミとが別人だからです。
Arc_gについては・・・まぁあんなキャラだと思います。てか思ってます。
特に「生憎俺は普通じゃない」てとこあたりが。
それはともかく何故かボツリストの中にあったこの作品(?)ですが、一応upすることになりました。
多分今後も含めて最短の作品でしょうけど、感想とかあったら是非。


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