君がいる理由、僕が望んだこと








 カチカチとマウスの鳴る音が薄暗い部屋に響いた。
 他に音がしないこともあり、やけに大きく聞こえる。
 カチカチともう一度鳴らす。
 特に何か見たいものがあるわけでも、調べたいことがあるわけでもない。
 これはもう、日課だ。
 ディスプレイに映し出されている文字に一文字一文字ゆっくりと目を通していく。
「…………」
 カチカチ
 電気はつけていない。だから、目も悪くなる。
「……バーカ」
 ふと、目についた掲示板の書き込みに向かって少年は小さく言った。
 キーボードを取り出し、レスを書き込む。
 もちろん中傷的な内容で、だ。
「死んじまえよ」
 書き込んでから短くそう言い放つと、また違うサイトを探して適当に検索をかける。
 何が楽しいんだか……
 HPを開くだけ開いて、何もしないでそのTOPをじっと眺める。
 何が楽しくてコイツラこんなことしてんだ?
「…………ッチ」
 舌打ちして、閉じるをクリック。
 今まで表示されていたウィンドウが消え、壁紙が全体に映し出される。
 綺麗な青と白で彩られた地球の写真。
「…………」
 暫く黙り込んで、ただその写真を見つめる。
 安達 康之
 それが少年の名前。
 少年が自分自身で忌み嫌っている名前。
 理由は単純。
 平凡すぎて何の面白みもない名前だから。
「……面白くねぇな」
 そう言ってカッターを取り出し、机に傷をつけてゆく。
 何度も、何度もそうして来たから既に机はボロボロになっている。
 成績は普通、いやそれ以下だ。
 運動神経だってない。
 背も低い。
 眼鏡だし、ニキビだし……
「全国探せば百万人はいるっての……」
 どうして自分はこんなに平凡なのか?
 どうして『特別』でありえないのか?
 カッターの刃を、自分の手首に押し当てる。
「…………」
 何度、同じことを試みただろうか。
「…………」
 だが、一度としてこの手を引けたことはない。
「畜生……」
 カッターを机の上に放り、伏せる。
 情けない。
 何故、こんなことも出来ないのか?
 怖いから?痛そうだから?
「畜生……」
 暗い部屋の中で一人小さく呻き声をあげる。
 もう、日課と呼んでいいほどにまで繰り返してきた、日常の風景。
「何でだよ……」
 問い掛けても返ってこない。
 そもそも、誰に問い掛けているのかさえわからない。
 重い空気。
 冷たい夜。
 幾度となく繰り返してきた孤独と死の連ねる日常。
 そして明日からはその日常の延長線。
 例え夏が始まろうとも、それは変わらない。
 そのはず、だった。
 康之が眠るその瞬間までは。

 朝。
 流石に夏だけはあって、日が昇るのが早い。
 日本という国の特徴でもある高湿度のせいで、朝から蒸し暑い。
 そして先程から鳴っている目覚し時計と母親の怒鳴り声の不協和音が更にそれを際立たせている。
「康之っ!いつまで寝てんの!目覚まし鳴ってんでしょ!」
 一階の、恐らくは台所から叫んでいるのであろうが、信じられないぐらい大きく響いてくる。
「うっせーババア。近所迷惑だろうが」
 渋々と布団を隅に押しのけて立ち上がる。
「貴様もうるさい」
 長年愛用し続けてきた目覚し時計に渾身のチョップを食らわせて黙らせる。
「康之っ!!」
 急かすように、実際急かしているのであろうが、また怒鳴り声が聞こえてくる。
「もう起きてるって!!」
 怒鳴り返す。
「……たく」
 髪の毛を掻き毟りながら扉を開き、階段を下りる。
 途中、二回ほど欠伸をかみ殺す。
 ……昨日は遅すぎたか
「おはよう」
 ダイニングの入り口に掛けてある玉暖簾をくぐりながらやる気なさそうに朝の挨拶をする。
「おはよう。さっさと食べり」
 そういって康之の母は忙しそうに既に食べ終わった食器などを片付けている。
「父さんは?」
「今日は早出!あんたも学校でしょ?」
「まぁね」
 曖昧に返事を返しながらコップに注いである牛乳を半分ほど一気に飲む。
「時間はいいの?」
「ん〜ヨユーヨユー」
 焼かれてから結構な時間がたって硬くなっている食パンを何の気もなしにかじる。
「……ごっそさん」
 最後に牛乳を飲み干して席を立ち、二階へと戻っていく。
 物心ついたころからずっと使っている自分の部屋。
 それなりに愛着は湧いているが、なくなると言われても別段困ることはなかった。
「ったく。何で夏休みまで学校に行かなくちゃいけないんだ?」
 パジャマから制服へと着替えながら愚痴る。
 この四月新しく入ったばかりとはいえ、もう既に着慣れてしまった制服。
 新如月ヶ丘高校
 どこがどのあたりで『新』なのか康之にはわからなかったが、それが康之の通っている学校の名前だった。
「いってきま〜す」
 いつも通り覇気のない声と共に家を後にする。
 後ろのほうで幽かに母の声がしたが、大方いってらっしゃいと言っただけだろう。
「……はぁ」
 学校までは歩いてもそう遠くはない。
 だが距離が問題なのではない。
「何で夏休みなのに学校があるかな〜?」
 自分の部屋で言ったのと同じような言葉をもう一度口にする。
 それが何の解決にもならないことを知っていたとしても、そうすることで何かこの状況を打破するものが出てくるかもしれない。そういう期待が捨てきれていなかったから。
「…………」
 朝から強い日差しの降り注ぐ公道を歩きながら左手首を確認する。
 時計はしていない。
 見て判るような傷がついてないかを確認するために。
「……はぁ」
 何度見ても傷一つついていない。
 その事実に康之はため息をつく。
 普段は夜の憂鬱な気分を朝まで引きずることはない。とはいえ、全くないわけではなかった。
 たまにだが、今日のようにどうでもよくなることがあった。
 このままサボってしまうか?
 足を止め、そう考える。
 どうせ学校に行ったところでいいことなんてないもんな……
 空を見上げる。
 青く澄んで、何処までも広がる空。
 白く輝いて、果てしなく積もる雲。
 眩し過ぎて、手で影を作ってしまうほど。
「……サボるか」
 空を見上げたまま、康之は呟いた。

「……今何時だ?」
 橋の下の影になっている場所で、横になって本を読んでいた康之は体を起こし、ポケットに手を入れる。
「……忘れたか」
 目当てのもの、携帯がないことを確認すると康之はもう一度横になる。
「ま、いっか」
 本を掲げ、再び読み始める。
「…………」
 ジージーと蝉が鳴いている。
「…………」
 ジージー
「…………」
ミーンミーン
「…………」
 ジージー
 ミーンミーン
「……うるせぇ」
 上半身を起こし、鳴き声のする方へと向き直り、
「ジージーミンミンうるせぇんだよ!てめえらが鳴いてたら余計に暑くなるだろうがぁつ!!」
 力一杯叫んだ。
 普段人前では絶対に出すことのない康之のキャラクターが全快にされる。
「そんなに鳴きたきゃ寄り集まって一箇所で鳴きやがれ!俺の近くで鳴くんじゃねぇっ!!」
 草むらを指差しまた叫ぶ。
「それは流石に無理だと思いますけど……」
 唐突に横から声が掛けられる。
 だが、そんなことは全く気にせずに康之は振り向き、
「ああ!?」
 相手が誰かも確認せずに思いっきり威嚇した。
「え、あ、えっと、その……」
 相手は康之の威嚇に少なからず驚き、戸惑う。
「ご、ゴメンナサイ。声が聞こえたから、その!」
 慌てふためきながら何とか謝罪の言葉を言おうとする。
「え、あ……」
 そんな相手の態度に我を取り戻した康之は真っ赤になって俯く。
 うわ、やべっ……
 今までずっと隠してきた自分のキャラクターを予期せぬ形で他人に見られてしまった。
 しかもその見られた相手が女だったのだ。
「えっと、その私は別に、その」
 女は女で一生懸命に何かを説明しようとして真っ赤になっている。
 康之が怒ったとでも思っているのか。
 ……どーしよ
 生まれて此の方康之は女と言うものとほとんど話したことがなかった。
 それは相手にされていなかったということであり、あがってしまってまともな会話にならなかったということであった。
「べ、別に怪しい者じゃないんです。ただ、道に迷って、その……」
 そう言って女は黙り込む。
「……道に迷った?」
 康之はまるで自分に問い掛けるようにして聞き返した。
「あ……はい!そうなんです。この辺り慣れてないから迷っちゃって……」
 康之が返事をしたのがよほど嬉しかったのか、声を張り上げて女は言った。
「どこに行くの?」
 決して顔を上げずに康之は訊く。
「はい!えと……」
 女は持っていたメモ帳から一枚の紙を取り出し、
「え〜と、何て読むんだろ?」
 なかなかの天然っぷりを発揮した。
 ……自分が行く場所の名前もわかんねぇのか?
 康之は女に見えないようにため息をつき、顔を上げた。
 実際、康之とて別に地理に詳しいわけではないが、判らなければ判らないで一刻も早くこの女から開放されたいと思っていた。
「ん?」
 顔を上げた康之の目に、女の服装が止まる。
 新如月ヶ丘高校の制服だった。
「……サボリ?」
 立ち上がって、紙を受け取るのと同時に聞こえるか聞こえないかと言った声で訊く。
「え?」
 女の方は聞こえていなかったのか、わからないと書いてある表情で間の抜けた声を出した。
「…………」
 その女の反応を見る前に、康之の顔が引きつった。
 新如月ヶ丘高校
 女から受け取った紙にはしっかりとそう書かれていた。

「りりえんたぁる?」
 新如月ヶ丘高校目指して歩いていた康之は、横を同じようにしてついて来ていた女に聞き返した。
「はい。リリエンタール・桜庭といいます。これからもよろしくお願いしますね、康之さん」
「あ、ああ」
 笑顔で言ってくるリリエンタールから目を逸らし、康之は小さく返した。
「それと私のことはリリィでいいですよ?」
 そんな康之の態度は全く気にせず、リリィは言う。
「ん、ああ。気が、向いたらな」
 目を合わせようとはせずに康之は返事をする。
 康之が新如月ヶ丘高校の生徒だと知ったリリィがどうしてもと言うので、気乗りがしないながらも案内することになった。
 その道中、ことあるごとに話し掛けてくるリリィを康之も初めは無視していたが、次第に返事だけはするようになっていた。
 別に話して嫌な奴じゃないな……
 どんなに無愛想にしても笑顔で話し掛けてくる。
 今までに康之の周りにいなかったタイプだった。
 ……それにしても背が高いな。いや、俺が低いのか?……どっちにしろ……
「あ〜リリィ?」
 名前を口にしただけで真っ赤になる康之。
「はい!」
 名前を呼ばれたことに感激したようなおもむきで答える。
「おま、君はハーフなのか?」
 何故か、言葉を選んでしまう。
「えっと、ハーフじゃなくてクォーターなんですよ」
「なるほど……」
 当たらずとも遠からず。康之は自分の推測に満足する。
「それが何か?」
「いや、特に意味があるわけじゃない」
 ただ、なんとなく訊いておきたかった。
 そう続けようとした康之は言葉をきり、自分の胸にしまいこむ。
 何故かはわからなかった。
「それで、新如月ヶ丘高校ってどんなところなんですか?」
 今度はリリィが康之に訊く。
「……そう、だな。俺なんかに訊くより他の奴に訊いた方がいい」
 康之は知らず知らすの内にリリィへと向けていた視線を戻し、俯く。
「?」
 康之の様子に疑問を覚えたリリィは一瞬訊こうとしたが、それを止める。
 俺なんかに……訊くよりもな……
「……康之さん」
 リリィが小走りに康之の前に回りこむ。
「ん?」
 顔を僅かに上げる。
「その、なんて言っていいかわからないですけど」
 康之から見上げたリリィの顔は青い空をバックにして、とても眩しくて、
「元気、出してくださいね」
 初めての言葉だった。

 もしかしたら、泣いていたのかもしれないな……
 一番高く昇った太陽の日差しを避けるように壁に寄りかかりながら康之は思い出していた。
 実際に涙を流したわけではない。
 それは間違いない。
 それでも、誌的な表現をするならば心が泣いていたのだろう。
 悲しくてではない。
 嬉しくて。
 元気出してください……か
 康之には今までにそうやって励まされた記憶はない。
 だから、相手にとってはそうではなかったとしても、何気のない一言だったとしても、康之は嬉しかったのだ。
 初めて、自分が理解されたような気がしたから。
 だから、今こうして特に用事もないのにリリィが職員室から出てくるのを待っていた。
 特に言われたわけでもなかったし、むしろそんなことは一言も言ってなかった。
 それでも、康之は待っていた。
 話によればリリィは本来ニ学期に転入してくるはずだったが、本人の希望により夏休みの課外補修に出ることになったのだ。
「そして、道に迷った……と」
 もしあの時自分がサボってなかったら一体どうなっていたのか。
 様々なリリィとの出会い方に康之は思いを巡らせる。
 思わずにやけてしまいそうになるのを必死で押さえ込む。
 空、高いよな……
 今なら何でもないようなことにでも感動できた。
 全てが新しいものいのように感じられた。
「お、康之じゃねぇか」
 自分の名前が呼ばれたことに気づき、声のした方を向く。
「五十嵐……」
「なんだ〜今日は来てねぇのかと思って心配したじゃねぇか」
 馴れ馴れしく近づいてきて、一方的に肩を組む。
「…………」
 康之は目をあわせまいと、俯き黙り込む。
「お、なんだ?今日はいつもより元気じゃねぇか」
 五十嵐の言葉に、一瞬康之はびくつく。
「康之のくせに……」
 五十嵐は呟くように言うと肩から腕を外し、「生意気なんだよ!」
 思い切り康之の腹を殴りつけた。
 鈍い音がして、康之の体が宙に浮き上がり、音を立てて地べたに叩きつけられる。
「づぅ……!」
 声にならない呻きを上げて、何とか立ち上がろうとする康之。
「ああ?二度とここに来んなって言わなかったかぁ?」
 康之の頭を踏みつけ、地面に押し当てる。
「お前がいるだけで白けちまうんだよ」
 踵に体重をかけて強く押し付ける。
「わかったら返事ぐらいしたらどうなんだよ?」
 より、力を込める。
「…………」
「あ?聞こえねーぞ?」
「さっきと……」
 それでも、力を振り絞って立とうとする。
「あ?」
「さっきと、言ってることが矛盾してるぜ?」
 言うなり、五十嵐を睨みつける。
「てめっ……」
 康之の言葉に激情した五十嵐は足を上げ振り下ろそうとする。
「五十嵐っ!」
 上げた足を振り下ろそうとしたまさにその瞬間、二人の間に一人の教諭が割ってはいる。
「何だよ田部ちゃんかよ」
「お前何をしてる!」
 田部と呼ばれた教師は五十嵐に向かって声を張り上げた。
「何って、コイツが哀れな僕を踏んでくださぁいって言うからやってただけですぜ?なぁ康之?」
 ニヤニヤと笑いながら五十嵐が言う。
 いつもの合図。自分に有利な証言をするようにと。
「流石にそんなことは俺でも言わないなぁ」
 康之は立ち上がると、切れた唇を拭きながら反論する。
「安達……」
「お前、何言ってんだよ!?」
 康之に食って掛かろうと近づくが、田部がそれを制する。
「何って、本当のことだ」
 目に力を込めて睨みつける。
「くっ……」
 その康之の気迫に押されたのか、五十嵐は唾を吐いてその場から立ちさる。
「……安達」
 その背中を見ていた田部が康之に向かって口を開いた。
「お前もやれば出来るじゃないか!」
「は、はぁ」
 田部は康之の肩に手を置くと号泣しながら叫びだした。
「教師生活早15年。今までに沢山の生徒を見てきたが、今日やっと、今日やっとお前は男になることができたんだな!」
「はぁ」
「お前はとうとう宿敵五十嵐に勝ったんだ。今日からは胸を張って生きるんだ恐れる必要はない!自分を信じて歩き続けるんだそうすることでお前はもっと強くなれる……!」
 てゆーか宿敵ってなによ?
「さて、それはさておき」
 急に号泣モードから真顔モードに切り替わる。
 流石にこれには康之も驚いた。
「ちゃんとあの子に礼を言っておけよ?」
 そう言って田部は肩越しに廊下の方を指す。
 康之が目をやってみると、リリィが手を振っていた。
 小さく同じように手を振り返す。
「あの子が知らせてくれたから何とか間に合ったんだ。ここぞとばかりに礼を言っておけ。おいしいケーキのある店に連れて行くのも忘れるなよ?」
 真顔で。
「はぁ?」
「どうしても場所がわからなかったらいつでも私に訊きなさい。秘蔵のお勧めの店50選を教えてあげよう」
 これも真顔で。
 ……なんかズレてねーか?
「よしつ行け!」
 バンッと背中を叩かれてふらふらと前に進む康之。
 何とかバランスを持ち直してリリィの元へとたどり着く。
「その、なんていうか。アリガト」
 なれない言葉に身を硬くする。
「そんなことないですよ。私は別に……」
「ちょっと待って」
 リリィの言葉を途中で遮る。
「できればその、敬語止めてくれない?」
「え?」
「いや、嫌ならいいんだけどさ。何て言うか」
 他人ってのが強調されるような気がして
 言葉を、自分の感情に近い言葉を選ぼうとしても康之には思いつかなかった。
「……そう、ですか。じゃあ帰りましょうか」
 結局敬語のままか……
 自分の提案が否決されたことに気を落とす。
 半分放心近かった康之の前に手が差し出される。
 康之が顔を上げるとリリィと目が合った。
「康之君」
 今度は本当に泣いたかも知れない

 今日は感動の連続だった。
 一日の感想として康之は今日という日を一言でそう表した。
 まず初めに今まで一度も当たったことのなかった自動販売機のルーレットが2回立て続けに当たったこと。更には500円玉を拾ったり、風でリリィのスカートが捲れたりといいこと尽くしであった。
 そして極めつけにはほとんど家での連絡ぐらいにしか使っていなかった携帯が役に立つとき、即ちリリィのアドレスと番号を手に入れることに成功したのだ。
「これが笑わずにいられるか!」
 そういうことがあって、一人部屋で騒ぎまくってる康之がいた。
   しかも既にリリィからの確認のメールは届いている。
 だがまだ見ていなかった。
 一つ一つ喜びを噛み締めるように今日あったことを思い出していく。
 今日は本当にいい一日だった……
「明日からもこの調子が続きますように」
 星に向かって祈りを捧げる。
 今まで一度もしたことはなかったけれど、きっと願いは届いただろうと確信する。
 何故か、今ならそう思える。
 俺って意外とハイテンションだったのか
「よーしそれじゃあ行ってみよう!」
 新たな自分の発見と共に、気合を入れてメールボックスを開く。
『拝啓 康之君
 えと、リリィです。もし間違って行ってたりしたらゴメンナサイ。えと、そのリリィです。あの、今日はありがとうございました。とても楽しかったです。あの、それでもしよかったら明日一緒に学校に行きませんか?無理だったら、そのいですけど。えと、明日一緒に行ってくれるなら、今日別れたところで待ってます。  敬具』
「……なんか普通の会話ッポイ文だな」
 あの、そのとか多いし。
「……ま、いいやどっちにしろ」
 携帯を握り締めてガッツポーズを取る康之。
「俺にも春が来たってことだ!」
 明日一緒に行きませんか?とか書いてあるし!もう間違いないねこりゃ!
 鼻歌を歌いながら踊りだす康之。
「お、そうだ日課日課」
 思い出したかのようにパソコンの電源をいれる。
「あー早く明日になんねぇかな?」
 楽しみで楽しみでしょうがない。
 本当に今日は感動の連続だ
 馴れた手つきでいつもと同じようにサイトを巡っていく。
 新しいサイト。過去に行ったことのあるサイト。
「あ、昨日のとこ消しとこ」
 たまたま目に付いた昨日中傷的な内容の書き込みをした掲示板。どうせ削除されていると思いつつも一応確かめるためにページを開く。
「えーとあれは確か……あった」
 上から順に見ていくと昨日書き込んだものがまだ残っていた。
「んじゃ削除っと」
 自らの手で、自分の書き込んだ物を消したことを確認する。
「これでよしっと……ん?」
 ウインドウを閉じようとしたとき、康之はおかしなことに気づいた。
 昨日自分が書き込んだ掲示板。
 その掲示板の、自分が書き込む原因となった書き込み。
 その書き込みの内容が変わっているのだ。
「……The world becomes as you hope.?」
 世界は貴方の思うがままになる。
 確かにそう、書き込まれていた。




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